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犬の心因性心臓麻痺~「ビックリ!」が命を奪う

   

犬

雷が怖い。
花火の音が怖い。
風にはためくカーテンが怖い。
車や自転車が怖い。

あなたの愛犬は何か怖いものありますか?

おじいちゃんと犬

長年飼ってた愛犬が亡くなり、ペットロスから部屋に引きこもるようになったおじいちゃん。
癌で長期入院したときも、病院の窓越しに愛犬との逢瀬を楽しみにするほどの愛犬家だったおじいちゃん。

引きこもるようになって2ヶ月。
カーテンすら開けようとしない日々。
このままでは精神的にダメになってしまうのではないかと、2代目チワワを拒否するおじいちゃんに半ば無理矢理ではありましたが、世話を押し付けるために連れて帰った犬が「さんた」でした。
生後5ヶ月の優しい顔をした男の子です。

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最初はなかなか部屋から出てこようとしなかったおじいちゃん。
ですが、根っからの犬好きのおじいちゃんが仔犬の可愛さに負けるのは時間の問題でした。名前を考え始めた頃にはもうメロメロです。
お誕生日がクリスマスだったこともあり「さんた」という名前になりました。

ペットロスからの回復

さんたという名前をつけて以来、おじいちゃんとさんたは常に一緒です。毎日朝晩ふたりで近所をゆっくりと歩き、一緒にテレビを見て、夜は一緒に眠りました。
先代のチワワのお仏壇を手作りし、毎日ドッグフードをお供えしてから散歩に行くのが習慣になりました。

1才になるちょっと前に膝の手術と去勢をしたとき以外ほとんどの時間をともに過ごし、おじいちゃんもすっかり元気になりました。

ペットロスというものは、結局ペットでしかなかなか回復できないのではないかと私は思います。若い人なら時間をかけて…ということも可能ですが、手術で頭をいじった経験のある老人は些細なきっかけで簡単にボケてしまう。それを一番避けたかった。

もしおじいちゃんが新しい犬を受け入れなかったり、また入院するようなことになって世話ができない状況になったとしても、同居の家族が孫の代までいるので新しい犬を迎えることに支障はなかったのが幸いしました。

さんた

最悪の偶然が重なるとき

さんたが来て3年が過ぎました。
寒がるさんたにコートを着せて、寒い冬も休まず散歩に行ったおじいちゃん。

暖かい春が来て、寒がりなさんたも意気揚々とお散歩に出かけていました。
普段と何も変わらない、何の不安もない、いつも通りのお散歩で、事件は起きました。

このあたりは山側にある住宅地のため坂や階段が比較的多い地域でもあり、お散歩するにも避けて通るのが難しい地域です。
おじいちゃんとさんたのお散歩コースにも1箇所だけ住宅街の中にある階段があり、その階段をあがって10メートルくらいで自宅に着くというコースでした。

その階段をあがると、車が2台すれ違うことができる程度の道があります。住宅街ですから頻繁に車が通るというわけでもありません。抜け道にならない住宅街なので、このあたりに用のない車は来ないようなところです。

おじいちゃんとさんたはいつも通りに階段をあがり、家に帰ろうとしました。
ただ、いつもと違うことが3つありました。

階段をあがった先の道路に違法駐車の車があったこと。
その違法駐車の車を避けながら、1台の車が階段側に寄りながら走ってきたこと。
おじいちゃんが階段の一番上の段でつまづいてコケてしまったこと。

最悪の偶然としか言いようがありません。
こけた拍子におじいちゃんより先に上にあがってしまったさんただけが車にぶつかったのです。

出血も外傷も全くない状態

車のスピードがほとんど出ておらず、すぐに停止してくれたのが幸いしたのか、さんたには外傷も出血も全くありませんでした。ほんの少し当たってしまったか?という程度の事故だったそうです。

しかし、目は開いたまま呼吸も止まってしまいました。
気が動転してしまったおじいちゃんはさんたが即死してしまったと思ったようで、車のドライバーとほんの少し会話してからさんたを抱いて自宅に戻りました。

かすり傷ひとつない体

連絡を受け、私がさんたのところについたのが事故から1時間ちょっと過ぎた頃。

さんたの体をチェックしても、骨折しているようなところも見当たらず、耳や鼻、口からの出血もなければ下血もない。かすり傷ひとつない綺麗な体でした。
どう見ても即死するような事故にあったように見えません。

もしかしてビックリして心臓麻痺でも起こしたか?そう思わざるを得ない状況でした。
体もまだ温かく死後硬直もなかったので念のため心臓マッサージをしばらくしてみましたが、やはりダメでした。
外傷なしで呼吸停止、心臓停止状態なら即マッサージだろうが!とはおじいちゃんには言えません。

ビックリして死んでしまう犬はいるのか?

実際ビックリしたことが原因で死んでしまう犬はいるのでしょうか。

調べてみたところビックリして死んでしまうのは珍しいことではないようです。花火の音にビックリして死亡、雷に恐怖して死亡などたくさんの体験談がありました。トリミングに行かせたら、ペットホテルに預けたら…など、色んな原因でショック死している犬がいることに驚きました。

外傷性あるいは心因性のショックにより物理的生命機能が停止する以前に死亡することと定義されるらしく、生物にとっては特に珍しいものでもないようでした。

犬の蘇生法についての詳しいPDFがこちらにありますので万が一のときのためにご参考にしてください。
最新の犬猫臨床例における心肺蘇生ガイドライン

あとがき

人間もペットも、いつ、どこで、どんなことがあるか全くわかりません。健康な若い犬でもある日突然いなくなってしまうこともあります。

これからどうやっておじいちゃんの心のケアをしていくか。病気で亡くすのと違い心の準備が全くできていない状態で、しかも自分を責めてしまっているおじいちゃんのケアは簡単ではないでしょう。修羅場は当分続きそうです。

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